「新妻先生、AIが台頭してくる中で、私たちはより意欲的に思考していくことが大切なのだとよくわかりました。そこでなんですが、思考の方向性と言いますか、さらに大切なことはありますか?」
コラムの読者さんからいただいたご質問です。
前回のコラムではAI時代の到来にあたって、交通網の発達で足腰が弱くなっていったように、これからの人類はAIの発達で全体的な規模で言えば、思考力、知性は衰退していくということは予想がつく、
だからこそ、今まで以上に「より人間らしく考え」、相手の想いを汲み取ったり、新たな問いを「発想」したりしていくことが極めて重要、とお伝えしていました。
ここから、「人間らしく考える力」とは具体的にどうすればいいのか?というお話を深掘りしていこうと思いますが、これは一言で言えば「役割を自覚する」ということです。
あなたがあなた自身の役割に対して、どこまでのレベルでその「役割」を自覚しているか、これがあなたが「人間らしく思考」しているかどうかの基準となるのです。
「役割」という概念の醸成こそ、これからの社会における重要なファクターになっていきます。
たとえばAIは、与えられた仕事を的確にこなすことができます。ですが、それは仕事を与えられた範囲内で行うということです。以上でも以下でもありません。
専門サービスに特化したAIがいたとしても、あくまでプログラムの想定内の機能として、そう働いているだけです。
一方で、人間の役割における理解度には幅があります。何のためにその役割をもらっているのか、その「自覚の度合い」で思考、感情、行動は全く違うものに変化します。
ホテルの清掃員が自分の持ち場を掃除するのはそれが役割だからですが、その意識は個々に差が出てしまうのは明らかです。
一流ホテル全体の運営の一端を担っているという自覚がある清掃員か、ただ今月の給料をもらうためだけに働いているのか、という意識の違いです。
では、どんなそこにどんな“質の違い”が生じるのでしょうか。
それは、その場が持つ「磁力」が変わってくるということです。ここでいう磁力というのは、人間の意識から発せられるエネルギーそのもののことです。
つまり、個々人が自らの部分的な役割を意識しながらも、同時に全体性の一翼を担っている、という意識がある集団は、場全体のエネルギーが高くなり、やがては統一性を持って働くことができます。これは組織としてはかなり重要な問題です。
なぜかというと理由は簡単で、この反対のことが起きてくると組織はどうなってしまうのかを見ていけば明らかです。
全体性の観点が抜けていると、各自が部分で当てがわれた場所だけを自分の責任として考え始めます。それは「部分最適の思考」が全体に蔓延するということです。
言い換えれば、「自分の仕事だけやっていればいいんでしょう」と組織の全員が思うということです。それではまとまりがなくなってしまい、忙しいだけで生き生きと活性した場作りは不可能となってしまいます。
マイナスの方向にどんどん影響を強めてしまうのです。あなたという個人も、そういった組織内では潜在的に「不和」を感じることになり、プラスの感情ややる気などを持つのが難しい環境となってしまうのです。
それが進むと辞めたいという気持ちを引き起こす原因となります。
人間は人間である以上、「役割をもらう」こともあれば、「役割を振る」こともあります。しかしいずれの場合も、役割をもらう側としての自覚、役割を振る側としての自覚が共鳴しあって、その場のクオリティ/ エネルギーが決定されていくのです。
WBCで日本が優勝したことで先週はほどんどがこの話題で持ちきりでした。この事例をもとに「役割」を観てみます。
栗山監督と大谷翔平選手は、それぞれ役割を与える側、与えられる側として、お互いに立場を深く理解していたことが随所に伺えます。
栗山監督は、監督としての役割として再三にわたって「球界の未来のために」という発言を繰り返しており、そのことを「どれだけ考えているか」を各選手に尋ねていたといいます。
また大谷翔平選手は決勝のアメリカ戦直前に「憧れていては勝てない」「トップになるためにきた」「憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう」という言葉を発し、キャプテンとして全体の指揮を一層高めていました。
役割を自覚している監督が、役割を自覚している選手に、的確な役割を振るという構図。そうすることによって、他の選手たちもさらに精度の高い役割を全うすることができます。
これはチーム全体が高い相互理解が起きるようになるために大切なプロセスです。
では栗山監督や大谷選手のように、あなたが自分自身の役割を自覚していくには何が必要なのでしょうか。
それは非常にシンプルで「意識を広げる」ということです。
部分的な役割をそのままこなす、という個人の考えの範疇から抜け出すために、その役割は全体性の観点からどんな意味と意義があって、自分に巡ってきている役割なのか?これを遡って考えたり、予測して考えていくことです。
そうすることで初めて「会社全体のために自分はこの部分を任されている」という意識に変化することができます。政治家で言えば「市全体のために」という発言になっていったりするのです。
この「全体性」の観点から割り出された役割という認識が、どれくらいの規模から想起されているか、ここがこれからはダイレクトに問われてくるということなのです。
「球界の未来のために」という発言と問いに、栗山監督の「意識の広がり度合い」がはっきりと感じ取れるのです。
あなた自身が、組織や地球全体への貢献という「大きな視点」を徐々に獲得し、その時点での役割をまっとうしようとすれば、その意識の変化がそのままあなたの活躍する社会的なステージにも反映されることになります。
あなた自身も
・組織への居心地の良さ
・自分の才能を発揮できることの喜び
・貢献できることの楽しさ、などを
強く実感できるようになっていきます。
あなたの意識が変われば役割も変わり、役割への自覚が深まるほどに、あなた自身の受ける恩恵も多くなるという構図です。この好循環を作っていくことが大変重要なのです。
組織からの観点で申し上げれば、影響力の波及効果をプラスの方向に使用できるように組織全体を変えていくという点が重要になります。
組織としても、あなた個人としても、全体性について考えていくことによって、役割に対する意識を醸成し、高めていくことがこの好循環を作っていくのには必須というわけです。
あなたは日常の中でいつの間にか視点が狭くなってはいないでしょうか?
社会、組織、家族での役割、様々なシーンでのあなた自身の役割をきちんと考えていますでしょうか?